美学


「アタシ、マッチョと演奏する美学は持ちあわせてないの」


人生の中には、いろんな転機がある。
その中で、多かれ少なかれ生活を支える金銭を稼ぐ為の仕事(俺は音楽以外の金の稼ぎを青春と呼んでいる)を変えるという出来事は、かなり重要な位置を占めるのではないだろうか。

前の青春先に勤め3年。
「そろそろここも潮時だな」
と、別れを告げた今年始め。
それから1ヶ月ほど、ぷらぷらと流れ歩き今の青春先にたどり着いた。
早2ヶ月ほどが経とうとしている。

新しい仕事の内容はといえば、車で物を運び届けるという実に単純なもので、車の運転が人並みに出来る事。
道を知っている事。
そして、物を運ぶ体力というものがあれば特に難しい事はない。

勤務開始。
車の運転と道に関しては今までの経験から特に問題なくこなすことができた。

しかし最後の「体力」。
これが持ち合わせていなかった。

取り扱う思っていた以上の重量物に、
「はっ!……っっ……くはー。……ぜー……はー……」
一つ物を持ち上げ、下ろすだけで切れる息。悲鳴をあげる手首を始めとした関節達。日に日に強くなる筋肉痛。
まだ三月だというのに吹き出す汗。

仕事が終わり帰り道、良かれと思い進んだ先にはよくありがちな感情が、待ってましたとばかりに襲ってきた。
「こんなはずじゃなかった…。」

夜がさしせまり、冷たい風が頬を刺す。
手首も痛い。そして筋肉痛も…。
いっそこのまま逃げ出そうか。

しかし、負けん気だけは良くも悪くも強い方だ。
まだ地道にでも音楽活動を続けているのは、その為かもしれない。


「どんな時も逃げない」


これは俺の美学だ。

そして現在。
気付けば、体力がついたのか、重い荷物も苦にはならなくなっている自分がいる。
腕も心なしか筋肉がついたみたいだ。

そんな中、先日のライブ。

本番前に、吉祥寺でスタジオに入った時の事。
バイオリンのアヤさんが俺の姿を見て言ったセリフが冒頭の言葉。

アヤさんの美学のまえに、俺の美学がよろめいた瞬間であった。


運命
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